すまいる愛知住宅賞 (第28回)
(独)都市再生機構 中部支社長賞
The Distance
同一敷地内に親世帯と暮す為に建てられた家族三人の子世帯の住宅である。机上分筆して戸建て住宅として建てられたので実際に建築基準法上では離れではないが、同じ敷地内で二つの住宅が良好に機能する為にはお互いが“離れ”なければならないと考えた。
与えられた敷地は母屋と隣地の間で東西間口が6mもなく窮屈な敷地であったが、幸い南北方向奥行きは18m程度と長さはあった。双方世帯がその敷地条件の中でお互いのプライバシーが干渉されることもなく、良好な光、風の環境を得られるような子世帯の住宅がこの場所に求められる。The Distanceは距離で離すことができない状況の中、双方の生活を壁で離すことで実現させた住宅である。
先ず、母屋の光環境の邪魔することなく配置したいと考えたが、通例通り南側に空地をとり北側いっぱいまで建物を寄せた場合、母屋の東側に建物が寄ってしまう。ちょうど母屋の北東側にはキッチンがあり、その部屋に光が入らなくなる。そうならないよう(→配置図参照)①平面形状を円形にし、②2階ボリュームを南側に寄せ、③北側には平屋になるよう屋根で下げて、④リビングは窮屈にならないように下屋で広げた。そのようにして母屋の東側、南側に極力影を落とさないような形状を立体的に導いた。
一方内部空間は、円形になったその壁に“離れ”の意味を更に持たせられるように奥行きを設けた。奥行き65cmの格子状に構成されたその壁は、キッチン、手洗い、その他収納がすっぽり収まっている。また、それらを同時に耐震性向上にも役立てている。全体に長く、高く連なる壁と棚の格子は、限られた空間を最大限に広く感じさせる効果を生んでいる。時には母屋が彼方に感じたい時も必要かと想定し、内部空間は別世界を作っている。
同一敷地内で親世帯と子世帯の双方が良好な環境で過ごせるために設けられた壁のことを、ここではThe Distanceと呼んでいる。
設計者:(株)bandesign/伴 尚憲
講評:審査委員 朝岡市郎
この作品は、二世代が快適に住むために計画した作品です。外観はなだらかなカーブ、内部は、円形の建物に在りがちな無駄なスペースは無く、なだらかなカーブは魅力的なゆとりある空間を創造している。特に母屋側に面した壁一面にある格子状の棚は住まい手の趣味の展示が建物をも引き立ててもいる。随所に工夫の成果による実床面積より広い空間を感じることができる素晴らしい作品である。