すまいる愛知住宅賞 (第29回)
名古屋市住宅供給公社 理事長賞
光庭の棲
光庭の棲 設計趣旨
夫婦と猫二匹のための住まいである。
敷地は、地形の起伏が激しい地域の住宅地にある。隣家との距離感は近く、狭い前面道路を挟んだ向かいも体育館が建ち迫り、採光・通風・プライバシーの配慮が不可欠な都市型環境であった。
周辺の家々は駐車場の確保に伴い、庭とまでは呼べないようなスキマに残る空地をわずかながら緑化し、隣家との相互関係は地形の起伏によって程良くズレ、それぞれ都市の中の暮らしを確立しているのがユニークに感じた。
われわれは、この地形の起伏と周辺の家々の状況を受け入れながら、内外の領域や内内の領域を曖昧な関係性よって結びつけ、建築というフィルターを介すことで、豊かな住環境を獲得できるのではないかと考えた。
そこで、前面道路より奥に向かって2mほど段差のある地形を内部空間にまで延長させ、引き込まれた外部要素は中庭のような位置づけのもと、そこを取り巻くように生まれた高低差によってスキップフロアを構成し、さらに中庭の上部には大きなトップライトを設け、空間全体で光を享受する。
この光庭を中心とした空間は、内外の領域や体感に曖昧性が生まれることによって、生活として機能中心のモノゴトがなされたりするのではなく、人や環境が日々関わり合う状態の生活が生まれる。
また、プライベートを集約した棟屋に対しても些細なスキマを設けたり、ズレを生かして生活や機能がはみ出し合い、抜けをつくることで空間がより緩和し、周辺環境に呼応する。このような関係性は、採光・通風といった自然環境にも同様にはたらき、光庭に人が寄り添い、留まる居場所がつくられる。
地方は敷地や自然環境による制約が少なく、必然性が豊かさを引き出したりするが、都市になればなるほど多くなる制約は、数多くの要素を人と環境に結びつけて整理していくことで、関係性が豊かさをつくる。光庭の棲も住み手と共に豊かさを展開していくことを期待したい。
設計者:(株)エムエースタイル建築計画/川本 敦史・川本 まゆみ
講評:審査委員 廣瀬高保
道路に面した建物の間口いっぱいに開かれた玄関を入ると目の前に建物の幅の光庭(上部はトップライト付きの吹き抜け)が左右に広がる。
奥へ進むには中庭を横断しなければならないのだが、庭石のように組まれた急な石段を登らないと屋内に入ることができない。下りは登山道を歩くような慎重さが要求される。両側の壁から持ち出された階段で光庭を中心に半階ずつずれた各フロアを巡る。光庭はシンボルであり、このすまいの命である。