すまいる愛知住宅賞 (第32回)
人や地域にゆとりと安らぎを与えるようなやさしい空間づくりを提案した住まいを募集し、「ゆとりと安らぎのある住まい」を実現した住宅を表彰する「すまいる愛知住宅賞」も、今回で32回目となりました。
たくさんの素晴らしい作品をご応募いただき、誠にありがとうございました。審査委員による厳正な審査を行い、入賞作品を決定しましたので、ここに発表いたします。
建物名称 | 設計者 | |
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愛知県知事賞 | House OS 3つ屋根の下 | 1-1Architects一級建築士事務所 石川 翔一/神谷 勇机 |
名古屋市長賞 | 幾何学模様に出会える街の家 | 水谷夏樹建築設計事務所 水谷 夏樹 |
住宅金融支援機構 東海支店長賞 | 大泉寺の家 | みのわ建築設計工房 箕輪 裕一郎 |
UR都市機構 中部支社長賞 | 川辺と道の窓をもつ家 | TUNA Architects
森 友宏/鈴木 裕太 |
愛知県住宅供給公社 理事長賞 | 溶ける建築 | 裕建築計画 浅井 裕雄/吉田 澄代 |
名古屋市住宅供給公社 理事長賞 愛知県森林協会長賞 | 今伊勢の家 | 川本達也建築設計事務所 川本 達也 |
佳作 | 徳川山の家 | 川崎建築設計 川崎 拓二/川崎 律子 |
佳作 | 安城のアトリエと長屋 | 然設計室 浅井 晋 |
総評審査委員長 塚本 由晴
昨年度は新型コロナウイルスの感染拡大により住宅賞の開催が見送られた。今年度は2年分の募集があったかも知れないし、現地審査は難しいと、応募を断念された方もいたかもしれない。そんな状況でも力のこもった応募作品が多く寄せられた。本年度の審査は非常事態宣言下、リモートモードで行われた。応募者によるプレゼンテーションでは、主にスライドが用いられ、なかには住宅から実況中継しながら建主に参加してもらう工夫も見られた。これまで二日かけていたところを半日に圧縮したため、複数の審査員からの質問が、作品の多面的な理解を促すまでの議論にはなりにくかった。私からの質問に終始してしまう事もあり、申し訳なかった。ウィズコロナの住宅賞審査は、まだまだ模索中。
『House OS 3つ屋根の下』は、地目が農地と宅地に分かれている土地にしかできない、農と住の近づけ方の提案。農地転用の難しさを逆手に取って、これからの半農半住の暮らしや、都市農村交流に勇気を与える。農地部分に建てられた庇や温室は、半農半住の閾装置として秀逸。その存在が住宅をどう変えるか、さらに踏み込んだ提案が見たい。
『幾何学模様に出会える街の家』は、同じ正方形平面を1階と2階で45度回転し、両者を包絡するジグザクした壁を立て、部屋の四方に小さなあるアルコーブや吹き抜けを作っている。硬と緩、閉と開、という壁の対比的性格は、一般的に硬×閉、緩×開の組み合わせとなるが、ここでは床の輪郭と壁がずれることで、緩×閉の組み合わせとなっているところが発見的。上げ下げ窓の反復、高低差のある敷地への配置も、生活の細部を反映せずミステリアス。住宅?それとも給水塔?見る者に想像の広がりを与える。
『川辺と道の窓をもつ家』は、脆弱な木造躯体に慈しむように手を加えることで商店だったこの建物の過去と向き合い、高低差のある川と道の関係をこれからの使い方に繋げている素直さが共感を呼んだ。『溶ける建築』は一次審査から最も票を集めた意欲作。でも正確には『溶け残る建築』では?土壁とコンクリートシェルター、その上の木造屋根の対比が効きすぎて、ちょっと狙い過ぎたか。コンクリートシェルターの根拠が津波ハザードなら、コンクリートピロティの上に土壁の家を載せるなどの別案が頭に浮かんでしまった。『今伊勢の家』は道から敷地の奥に向かって、プロセニアムアーチのような木造フレームを反映し、舞台袖を複数用意することで、家の奥までの透明性を獲得。深い庇に穴を開けて植えた木が、今はいけばなのようだが、成長するとバランスが崩れるだろう。
『大泉寺の家』は世代を跨いだ住み継ぎの手本となるような配慮に溢れた改築。
『徳川山の家』と『安城のアトリエと長屋』は小気味良い空間構成と的確な計画でわかりやすい一方、こうした住宅設計手法では太刀打ちできない問題に取り組んで欲しい。
住宅という閉域を美しく整えることが、魅力になり得ることに変わりはない。しかしそれだけでは物足りないという感覚は、審査員の間で共有されていたと思う。「美しい閉域」は、所有対象としての住宅の中での勝ち組かも知れない。でも時代を超えていくほどの卓越を示しているわけではなく、これからの社会の方向性を一緒に作っていくようにも思えなかった。逆に閉域を疑うやり方の多様性が印象に残った。
参考
対象
- 愛知県内において、新築、増築又はリフォーム(改築、模様替えなど、居住環境の向上のための工事)を行った、一戸建て、長屋建て又は共同建ての住宅(増築、リフォーム後に住宅としたものを含む)で、平成27年4月以降に竣工したものであること
- 「安心・安全な住宅」「高齢者に優しい住宅」「環境へ配慮した住宅」など、人や地域にゆとりと安らぎを与えるようなやさしい空間づくりを提案した工夫がなされていること
- 現に居住していること など
- 応募点数
- 35点
- 審査委員(敬称略)
委員長 | 塚本 由晴 | 東京工業大学教授 アトリエワン代表 |
委 員 | 北川 啓佑 | 名古屋工業大学教授 |
川野 紀江 | 椙山女学園大学講師 | |
谷村 留都 | アールアンドエス設計工房 | |
柳澤 講次 | (公社)愛知建築士会会長 | |
澤村 喜久夫 | (公社)日本建築家協会東海支部愛知地域会地域会長 | |
松岡 由紀夫 | (公社)愛知県建築士事務所協会会長 |