すまいる愛知住宅賞 (第32回)
愛知県知事賞
House OS 3つ屋根の下
一家で熱帯植物の栽培を行う施主のための二世帯住宅の計画。地方の市街地市街化調整区域では農地や宅地が混在し、それらを一体として所有する事例が散見される。本計画の建主も、隣接する「宅地」「農地(接道あり)」「農地(接道なし)」という3筆の土地からなる敷地を購入した。それらは一見ひとつの土地のようであるが、そこには机上で定められた見えない隣地境界線が引かれている。隣地境界線に着目することで、地方の市街化調整区域における農地と宅地の新たな風景の提案につながるのではないかと考えた。そこで、3つそれぞれの土地の制約に適合した別の建屋(住宅、農業用倉庫、温室)を、それぞれ隣地境界線ぎりぎりに寄せ、一体につながるように建てた。そうすることで、隣地境界線の存在が消え、大きなひとつの土地に建つひとつの家のように暮らせる。一方、それぞれの建屋の土地が異なることを示すため、3 棟の間にごく狭いスキマをつくり、光の筋や雨の滴り、風の抜けといった環境による新たな隣地境界線を描き出した。本計画では、土地の制約や用途を超えた生活の繋がり、新しい風景、それにより起こり得る現象を設計した。
3つの敷地に建てること
当然であるが、住宅は宅地にしか建てられない。また、建築基準法には、1敷地1建物の原則が存在する。本計画は宅地に住宅を、2つの農地に農業用倉庫と温室をそれぞれ建てることで、3つの敷地それぞれにひとつずつ建物を建てることとした。
3つ建物が寄り添い、敷地に裏をつくらないこと
ひとつの土地ごとに建物を考えると表裏が出来やすく、それが街並みの形成つながっている。本計画では、3つの建物が寄り添い、3つの土地全方向に開いていく住宅を目指した。また、これにより地方の市街化調整区域における農地と宅地が寄り添う風景のつくり方を提案する。
3つの建物があること・1つの建物に見えること
ゲシュタルト心理学の創始者のひとり、マックス・ヴェルトハイマーは形態を知覚する際に働く心理的要因をプレグナンツの法則としてまとめ、7つの群化の要因を挙げている。本計画では、外壁ラインに連続性を与えることでまとまった1 つの建物に見えるようにする 一方、仕上げはそれぞれ別のものにすることで(類同性の排除)、3つの建物の独立性を残した。
設計者:1-1Architects一級建築士事務所/石川 翔一、神谷 勇机
講評:審査委員 谷村 留都
熱帯植物育成のプロである家族が、宅地と農地が隣接している土地を購入し、住宅と温室、農業用倉庫をわずかな隙間をとっただけで近接させて建てた。法に合致させながらの斬新なアイデイアでの土地活用である。植物を建築の飾り物としてとらえるのではなく、生活しながらさらにその植生を見守るという実験的であり共生的な提案は屋根の勾配や雨仕舞など気になる点はあるがそれを差し引いても余りある瑞々しさが評価された。