すまいる愛知住宅賞 (第33回)
愛知県住宅供給公社 理事長賞
House ST
対象敷地は、地方都市の駅前再開発によって新しく生まれた保留地※であり、商業地域の中にありながら、住宅地として分譲された。そのため、駅から徒歩 1 分の立地であり、周辺には真新しい幅の広い道路と商業地域特有の大きく区画割りされた未開発の土地が広がっている。
初めて敷地に立った時、幅員 11m の前面道路やその正面に広がる高架上の駅が、おおよそ住宅のスケールとは似つかない印象だった。そこから本計画では、都市における土木的で大きなスケールと住宅における暮らしのスケールの対立をこのまちのコンテクストと捉え、それぞれに対してふさわしい設えにすることで、都市と住宅をつなぐ暮らし方を提案する。具体的には、建物を前面道路ぎりぎりに配置し、住宅1階の断面を道路側から徐々にスケールダウンするように計画する。道路際は、天井高 6m 強の吹き抜けと大開口により、住宅内部にまで都市の大きなスケールを取り込む。そこから奥に向かって、階段状に天井高さが低くなることで徐々に包まれるような空間に縮小していき、高さ 1.4m のピロティで外部の小さな庭につながる。異なる天井高さを持つ1階の内部空間を柱のないひとつながりの空間にすることで、道路際の大開口から見える高架の風景と奥の低い開口から見える小さな庭の風景が、暮らしの中でシームレスに絶えず変化する。階段状に天井高さを変えた1階により、反転的に2階の床がその形状を踏襲している。1階での天井高さの低い包まれた空間から躙口を入るように上階へアクセスする構成で、個室で構成される2階は暗い落ち着いた空間としている。最もプライベートな空間である各寝室には、それぞれ大きな窓が開いており、道路際の内部吹き抜けを介し、高架の駅が正面に見えることで再び都市とつながることができる。
この住宅では、駅前再開発地区における都市と住宅の異なるスケールをつなげる暮らしを提案した。それぞれに対する設えとシームレスにつながる空間の設計により、住まい手が、立ったり、座ったり、寝転んだりといった些細な暮らしの中での行動で、開放的に都市と繋がったり、包まれた自分たちだけの空間でゆったりと過ごしたりと多様な居場所を発見できる。都市に溶け込むでもなく、抗うでもない暮らし方と風景をつくれたらと考えた。
設計者:1-1 Architects一級建築士事務所/神谷 勇机、石川 翔一、後藤 唯
講評:審査委員 川野 紀江
地方都市駅近くの商業地域に建つ小規模住宅。都市的スケールの中に存在するこの住宅の立面は、一見、店舗のようでもある。前面道路側の都市のスケールを取り込む大きな吹き抜けから、奥に入るに従って徐々に天井高が低くなり、暮らしのスケールに変化していく断面構成となっている。開放的な1階の無柱空間に対して、2階の個室は暗く落ち着きがあり、吹き抜けを介して再び都市とつながる大窓を臨む。外からの視線を壁が遮るLDK、小さな庭を眺める低い開口部、プライベートな個室など、小規模でありながら多様な空間を持つこの住宅は、程よいあんばいで都市とつながる暮らしを提案している。