すまいる愛知住宅賞 (第33回)
UR都市機構中部支社長賞
中之郷の家
距離の感じ方と光の入れ方の実証。本件の主題は、距離感と日射の実験であった。ここでは設計主旨として、実験内容と結果考察をしていく。計画建物の外観は不思議な開口はあるが窓のない不気味な装いだ。屋内の存在がわかりにくく通りすがりに歩を止めてじっと眺める者もいる。一方で家の中からは意外と外が近くに感じる。さながら森の外から森の中の様子を窺う者と、森の中から森の外を臨む者の感覚の違いのようだ。
光の入れ方:屋内の日射環境に関しては集中採光からの拡散を試みた。リビングを中心に隣接する居室へ採光を回す計画である。これまでにもよく見たシナリオであるが、単純なトップライトによる光庭リビングを作る手法ではない。リビングを中心として各室へと拡散するルートは恒例通りだが、朝日から正午、夕日に至るまで、それぞれの性質に合わせた日射の取り入れ方を試行した。東隣地には大きな木が茂る隣家がある。そこでリビングの隣室にサンルームを設けて、間接的にトップライトからの朝の光を取り入れることにした。正午には南の光をいれるのだが、通り土間を軒替わりにして季節に応じた入射角調整をした。西日に関しては、外壁開口と窓の位置をずらすことで西日の直射光の入射時間を調整。結果として時間による入射光の性質に対し、広く既知とされている建築手法を応用することで、想像以上に居心地の良いリビング環境を作る事ができた。リピングに付随するダイニング・サンルーム・趣味室・寝室の各室には光量のメリハリが付きそれぞれの部屋の性格の表現に繋がっている。
距離感:道路から家の中までのバッファを三層設定した。まずは隣接する用水路と駐車場で、物理的な不干渉地帯と境界線による線引きをしている。次は植栽帯である。ここではまさに緑のカーテンとなるレイヤーが目隠しとなる。最後は通り土間である。緑のカーテンの内側にもう一空間あることで外部からは予想以上の距離感覚を与えた。反対に屋内からは外から見るほどの距離感を感じない。植栽という森のカモフラージュに、通り土間によって生じる影が予想以上に効果を高めつつ、窓という内外の障壁が外から見えない事もさらなる奥行感を与える要因になった。
内外の距離のあり方は、互いの見え方・感じ方が大事であろうと思う。そして外部との唯一の窓口としたリビングの居心地とはいかがなものであるべきか。建築手法と広く既知とされている手段に実直に取り組むことが出来た稀有な作品となった。
設計者:小川屋/小川 拓生
講評:審査委員 谷村 留都
植栽が生かされたシンプルな外観はインパクトが強く、内部が想像できない。現地に立ってみると周囲のとりとめのない住宅街においては一息つけるオアシスのようであった。内部に入ると、バッファゾーンが効果的で光の入り方が強すぎず、また暗すぎず、想像以上に居心地がよかった。2階の隔離された感がある子ども室が気になるが、個室にこもるようになる前の経過としてどんな風にこのすまいを使いこなすのか、大変興味深い。