すまいる愛知住宅賞 (第34回)
住宅金融支援機構 東海支店長賞
廻庭の棲家
愛知県岡崎市に計画された夫が救急内科医・妻が神経内科・漢方専門医とその子供たちの為の住宅である。食や自然環境への関心が高く施主の「住宅は健康を守るもの」という言葉をもとに、この住宅では、如何に太陽、水、植物、風といった自然と住宅が関わりを持つかを主題とし、庭への開放性と温熱環境を両立させる為、Ua値ZEH以上のHEAT20 G2基準を満たした。
敷地は、古くからの屋敷も多く残る住宅地であるが、集落の外側では区画整理が進み昔ながらの風景が様変わりしつつある状況である。近隣住人をも巻き込んで自然の恵みを享受できる暮らし方がとても重要だと感じた。
敷地の大きさを活かし、まず、真南に正面を正対させるように角度をつけて配置し、趣が異なる庭が四方を囲むようにした。次に平屋的な空間の広がりを意識しながら内と外、居場所と自然との繋がりを構築していった。土間キッチン、土間ダイニング、リビングは緩やかな段差で繋がり、さらに小上がりスペース、内縁台、ヒーテッドベンチなど、段差や素材の切り替わりで様々な腰掛けたくなる居場所を用意し、それぞれの場所で趣の異なる庭との接続を考えた。土間キッチン、土間ダイニング、屋外のテラスは一体の仕上げとし、庭で採れた野菜を調理したり、テラスで食事をしたりと、庭と連続した食のシーンが生まれる。垂木表しの切妻と寄棟の組み合わせによる屋根は、木の温もりで家族を包み込み、高さを揃えた軒先は庭の風景を切り取る。
庭はただ美しい造園を施したのではなく、地下を流れる水の循環に着目し、森に近い状態を生み出している。土に浸透させた雨水やせせらぎが土中の湿度環境を整え、水分を吸収した木々から蒸散される自然のミストが快適な湿度環境を作り出している。また、この住宅は様々な自然エネルギーを活用して温熱環境を整えている。屋根には太陽熱の集熱パネルを設置し、温水を給湯や土間蓄熱床暖房に利用している。リビングの中央で存在感を放つメイスンリーヒーターは、遠赤外線によって効率よく室内を温め、開口部は断熱性の高い木製サッシやトリプルガラスを使用することで断熱性能を高めている。
訪れた際、近所の住民が子供を抱きかかえた施主の奥様に話しかける場面があった。小鳥のさえずり・せせらぎの流水音や木々が風にそよぐ様子を近所の住民も楽しんでいるようだ。この先、自然の中で多くの事を学び成長していく子供たちを、地域の人々や住宅を囲む自然が優しく見守っていく。
設計者:TSCアーキテクツ/田中 義彰
講評:審査委員 森 哲哉
敷地は、幹線道路から奥に入った静かな住宅地にある。車の通り抜けも少なく、周辺には古くからある民家も散見される。敷地は260坪と広く、そこに庭と融合した平屋の棲家が計画されている。「住宅は健康を守るもの」として造られた住環境は、高断熱化、自然エネルギーの活用、遠赤外線暖房などが試みられ、内部の温熱環境、外部の湿度環境、共に良好。また、庭との繋がりがある暮らしは、豊かさをもたらすに違いない。そしてなにより驚いたのは、庭と道路との間に遮るものが何もないこと。美しい緑や自然は近隣の人々にも享受される。立ち止まり、会話が生まれ、人々を繋ぐ。まちの景色にも良い変化を及ぼすことが期待できる。