すまいる愛知住宅賞 （第34回）
名古屋市住宅供給公社 理事長賞
半月の家
敷地周囲は工場とその駐車場および畑が点在している。クライアントからは、プライバシーを確保することと、庭にむけて開くことの双方が求められた。また敷地は両親の土地を分筆した旗竿状になっていた。そこで、旗竿敷地の路地部分に小さな帯状のヴォリュームを配置し、敷地奥に複数の帯が連なる配置計画を行った。その際平面を雁行させることで、既存植栽を避け、また新たな庭を敷地奥に設けることを提案した。細長い帯は室内で連なり、幅のある居室として用途に対応している。断面計画として、近隣への圧迫感低減、プライバシー確保、畑への日射取得ため、勾配屋根を採用し、周辺に向けて低く構えた。屋根の間は開口とし、外部環境を取リ込めるように計画した。この住宅は、1階では畑や庭など、暮らしが外部環境に広がっていき、2階(寝室)では、就寝時や座位時に周囲の視線や建物を遮断しながら、空へと視界が広がる。ひとつの建物の中に「地面」と「空」といった多様な外部環境とのつながりが実現しておリ、この場所での暮らしを豊かなものにしている。
設計者：佐々木勝敏建築設計事務所／佐々木 勝敏、藤野 なみか
講評：審査委員 北川 啓介
本賞でも常連となった設計者が、旗竿敷地のもつ限られた敷地環境を反転するような住空間を実現し、まさに新しい建築のあるべき姿のひとつを示した秀作である。生活空間を奥行きに応じて伸びやかに配した平面計画、立位と座位と臥位の僅かな違いからも楽しめる屋外への眺望、さらには、まちなみとしての佇まいもずっと前からここに建っていたかのような馴染みも感じさせる。設計者による、住まい手、生活、環境、まちへの格段の配慮がミリ単位で体現されている。