すまいる愛知住宅賞 (第35回)
人や地域にゆとりと安らぎを与えるようなやさしい空間づくりを提案した住まいを募集し、「ゆとりと安らぎのある住まい」を実現した住宅を表彰する「すまいる愛知住宅賞」も、今回で35回目となりました。
たくさんの素晴らしい作品をご応募いただき、誠にありがとうございました。審査委員による厳正な審査を行い、入賞作品を決定しましたので、ここに発表いたします。
建物名称 | 設計者 | |
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愛知県知事賞 | 雲谷町の家 | 吉田夏雄建築設計事務所 吉田 夏雄 |
名古屋市長賞 | 小径のすまい | 田中郁恵設計室 田中 郁恵 |
住宅金融支援機構 東海支店長賞 | 宮西の遺跡 | 岩間建築設計事務所 岩間 昭憲 |
UR都市機構 中部支社長賞 | 縁側縁の家 | タイプ・エービー LAMP Architects 伊藤 孝紀 高橋 里佳 平野 章博 |
愛知県住宅供給公社 理事長賞 | 瀬戸の改修 | アトリエメイ一級建築士事務所 金子 佳弘 |
名古屋市住宅供給公社 理事長賞 愛知県森林協会長賞 | 庇の家 | 諸江一紀建築設計事務所 諸江 一紀 |
佳作 | 地上の家 | ナノメートルアーキテクチャー 野中 あつみ 三谷 裕樹 |
佳作 | 陽谷の家 | 山口 智三 |
総評審査委員長 塚本 由晴
今年は応募数が16と少なかったのですが、一次審査を通過した8作品はどれも誠実さに溢れ、丁寧に作られた質の高いものばかりで、非常に満足度の高い現地審査になりました。本住宅賞の審査をするようになって6年目になりますが、顕彰母体の名にある「ゆとりある住い」というものが、ようやく見えてきました。コロナ禍を経て間もないということもあると思いますが、ほとんどの作品が暮らしを見つめ直し、住み手と作り手の立場の違いを超えて、これからの住まいのあり方を探求しています。
ものづくり県ならではの卓越した技巧を凝らした傾向も、この賞の魅力ではあるのですが、それが少し後退して「ゆとりある住まい」とは何か?という問いが前に出てきたという印象で、「すまいる愛知住宅賞」に選ばれた6作品に共通しています。佳作の2作品は若々しい思い切りの良さが魅力ですが、相対的に構成的で建築が勝っていました。
高い評価を集めたのは、平屋の大きな切妻屋根の下に平屋とロフトを納め、家の外殻の内外がツールシェッドとして再定義されている「雲谷町の家」でした。軒下に簾がかかり、刈り払い機や農作業の道具が置いてある姿は、農村集落に移り住んだ新住民の住まいの佇まいとして腑に落ちました。
一人暮らしの女性のための戸建て住居である「小径のすまい」も、横幅が柱芯で2.1m奥行きが11mという極めて限定された2層構成の中に、豊かな陰影と光芒が生まれていることに審査員一同ゆとりを感じ、高く評価されました。
加えて私が気になったのは「庇の家」で、審査員の間には建築家としては親切すぎる、優しすぎるという評もありましたが、庇の垂木が1階のリビングルームにまで入り込み、その上にある窓からの光を分解し、平面中央を東西に走る廊下や階段が、北側の高窓からの光を受けるなど、暮らしの中に色々な光のふるまいがあるのが魅力でした。
ただ、そうした光のふるまいの気づきを元に、何度を設計を見直す遡行を経てコンセプトとして強化されたという印象はありませんでした。それが建築家の無作為なのか「ゆとり」をもたらすための倫理的な判断なのかは読みきれませんでした。
最後に、住宅設計を舞台にした愛知の建築家のコミュニティが、愛知の建築の質を高めるのに不可欠であると思います。よそ者である私にとっても、毎年そのコミュニティに参加して、色々議論することが、楽しみでなりません。来年も奮って応募していただき、皆さんに再会できれば幸いです。
参考
対象
- 愛知県内において、新築、増築又はリフォーム(増築、改築、模様替えなど、居住環境の向上のための工事)を行った、一戸建て、長屋建て又は共同建ての住宅(増築、改築、リフォーム後に住宅としたものを含む)で、2019年4月以降に竣工したものであること
- 「安心・安全な住宅」「高齢者に優しい住宅」「環境へ配慮した住宅」など、人や地域にゆとりと安らぎを与えるようなやさしい空間づくりを提案した工夫がなされていること
- など
委員長 | 塚本 由晴 | 東京工業大学教授 アトリエ・ワン代表 |
委 員 | 安藤 春久 | (公社)愛知県建築士事務所協会会長 |
井澤 幸 | 椙山女学園大学准教授 | |
北川 啓介 | 名古屋工業大学教授 | |
谷村 留都 | アールアンドエス設計工房 | |
濱田 修 | (公社)愛知建築士会会長 | |
野々川 光昭 | (公社)日本建築家協会東海支部愛知地域会地域会長 |