すまいる愛知住宅賞 (第29回)
名古屋市長賞
庭のあるシェアハウス
名古屋市内に建つシェアハウス。南側に建てられた既存棟と同じ施主による2棟目。
1棟目はシェアハウスのプロトタイプを模索する建ち方が提案されたが、今回は場所性を意識した空間性の追及を試みた。
シェアハウスはパブリックとプライベートが明確に分かれていることが多い。街というパブリック空間に対しては閉じ、内側にのみ濃厚なコミュニティ空間がある。その内部のコミュニティ空間は人が集まる共有部と、ひとりになれる閉じた個室で構成される。しかし、パブリック空間にも個の活動が生まれ、プライベート空間にもパブリックが感じられる場がある方が、生活の自由さを生むと考えた。
- 生活感のない大きな箱をつくると街に圧迫感を与え、シェアハウスの生活が分からないことが地域住民を不安にする。そこで個室を雁行配置し、小さな庭を周囲に分散させ、個人の生活が街と少しだけ接点を持つようにしている。分割したボリュームには周辺住宅と同じような勾配を付け、小さな住宅が集合して建っているような佇まいで街のスケール感を連続させた。
- 1棟目の裏庭を2棟目で挟み込み、双方の中庭としている。積極的に使われていなかった裏庭に対し、平面に凹凸をつけ、共有する畑を設け、1棟目の住人も浴室を使えるようにして程よい距離感を保ち、自然な交流が生まれるように考えた。
- 共用部における個人の居場所をつくった。分割された切妻屋根をそのまま内部で勾配天井とし、高さを活かした「開放的な共用部」と、低く抑えられた「落ち着きのある個室」をつくり出した。その両方を繋ぐ中間的な領域に、他人の存在を感じながら一人でいられる場所や、共用部に個人の所有物が溢れることを促す装置が必要と考えた。
職住が分離し、応接間が消えた現代において、住宅はプライベート空間のみになりつつあるが、パブリックとプライベートを内包するシェアハウスは街に開ける可能性がある。
設計者:鈴木崇真建築設計事務所/鈴木 崇真
諸江一紀建築設計事務所/諸江 一紀
講評:審査委員 谷村留都
道路からは住宅のスケール感で周囲に溶け込み、内部はシェアハウスならではの吹き抜けのある豊かな共有空間を内包している。シェアハウス建設で成功を収めたのち、今回の2棟目を作るにあたり庭と浴室を共有することで1棟目の機能付加に寄与している。
ふと、学生時代の寮生活の楽しい思い出が過った。今後、1所帯1住居に代わる多様な暮らし方が必要になるが、丁寧な対応での新しい展開を期待する。