すまいる愛知住宅賞 (第30回)
愛知県住宅供給公社 理事長賞
House NI-裏とオモテと境界-
敷地は、市街化調整区域にあり、周囲では開発が進んでいる。
施主は、そこに長年住んでいる夫婦とその母で、敷地には施主が暮らす築50年の木造平屋住宅が建っていた。当初は建て替えも視野に入れての依頼であったが、既存住宅の天井裏を覗いた際に、暗く大きな空間と立派な梁組みに惹かれた。町並みが変わることは悪ではないが、長時間そこにあったものが有するエスプリの最大化をもって、都市のスクラップアンドビルトに対する1つの解を提示する。
具体的には、既存住宅の1階と天井空間を隔てる天井面を‘境界’とみなし、1階・天井空間・境界の新たな関係性を生み出すことを考えた。既存の木造平屋住宅の軸組だけを残して部分解体した後、境界となる箇所の柱間に梁を挿入し、面を張る。構造的には、この水平構面により既存柱の座屈長さを短くすると同時に、中間階の地震力を外周部に伝達する耐震補強の機能をもつ。
天井空間は、新たな境界(床)と既存の屋根・梁組みの関係性によって成り立つ。そこに具体的な部屋名は無く、求められた床面積を満たすように柔軟に振舞うことが可能であり、1階では収まりきらない生活の補填を担う。また、四周を隣家屋根面で開口とすることで、プライバシーに配慮しながらも、外部からの光と風を1階へ届ける。内部からは、天井裏の高さで外部とつながることで、過去に閉じられていた空間が、町との適度な距離感を生む。
1階には、施主の要望であるプライバシーの保たれた個室を配置しており、内外のつながりや通風、採光等の観察によって、各室上部の境界(天井面)に異なる大きさの開口を設けることで、1階の住環境を補填している。
本プロジェクトでは、過去に裏だった天井空間をオモテに出すことで新たな定義を与えた。オモテとなった天井空間は、住宅内部だけでなく、町並みにもゆるやかな関係性の変化と奥行きを与え、古いモノがもつ価値を問いかけている。
設計者:1-1 Architects 一級建築士事務所/神谷 勇机・石川 翔一
講評:審査委員 松原 小夜子
天井板を取り払い、壁面上部の四周をガラス窓にすると、これまで隠れていた力強い木組みと広々した小屋裏空間が、住み手と街の人々の眼前に現れた。ガラス窓の下部に新たに貼られた床は、小屋裏に、もう一つのくつろぎ空間を生み出した。この床の、ところどころの「抜け」は、プライバシーに配慮して適度に閉じられた下階の居室群に、光を注ぎ、風を送る。こうして、築50年の木造住宅は、伝統的木組みと現代的居住空間とが「ともに活きる」新たな住まいへと蘇った。
築年数を重ね、取り壊されようとしている家は、全国に数多いであろうが、これらを「活用」へと向かわせる空間的魅力を、House NIは有していると思う。建築「再生」の新たな可能性を開く斬新かつ普遍性ある作品である。