すまいる愛知住宅賞 (第30回)
住宅金融支援機構 東海支店長賞
竪の家
この計画では、立体をつくる縦横高さを分解し、居室の「幅」に包まれるようなヒューマンスケールを、「長さと高さ」に周囲の街並みや敷地から導いたスケールを用いて計画した。居室幅は住生活のシュミレーションを繰り返し最小公約寸法として1.55mを有効寸法としている。幅1.55m奥行き13.5m高さ8mの気積が、柱梁一体のT型構造体を挟んでふたつ並んでいる。小さな幅の中で感じる親密な感覚と、離れた場所にいながら空間を共有する感覚を同時に感じること、場のスケールが人の移動や距離感によって伸縮を繰り返すこと、反復する構造体の間を人や光、風が自由に行き来することで合理性のなかに豊かさが生まれること。新たなスケールによって両義的な新たな自由が現れた。
上階の居室は、階段に合わせて少しずつ位置をずらしながら螺旋状に配置した。床は居室の幅が狭いことにより、梁を必要とせず50mmの板によって支えている。それにより上下階の関係は緩やかに繋がっている。柱間隔は日本で用いられる910mm間隔のモデュールを採用しながら構造体に幅55mm奥行き700mmという新たなスケールを用いることで伝統的な寸法体系のなかに新しい空間体験が加わっている。構造体上部の間から射し込む自然光が反射を繰り返し、やわらかい空気として内部空間を覆うこともあれば、朝日や夕日が鋭く射すこともあり「自然光とスケールがつくり出す風景」を躯体が支えている。また、建物幅を絞ることで外部では母屋と事務所の間に余白が生まれている。家の周りにアクティビティが生まれやすいスケールにすることで、暮らしや仕事が日常的に賑わいとして街の表情に繋がっている。ここでは住宅の用途を拡張し、ギャラリーやマルシェ、海外インターンのための民泊を予定しており、個人住宅が用途を超えて世界とつながればと考えている。
設計者:佐々木勝敏建築設計事務所/佐々木 勝敏
講評:審査委員 笠嶋 泰
母屋と設計者の事務所の間の9.5m×12.5m程の空間が敷地である。ここに自邸を建てる事が命題である。
厳しい条件に対して設計者は、幅4m、長さ13.65m、高さ8mの直方体で応えた。内部は、幅1.55mの細長い空間2本とその2本の空間を結びつけたり切ったりする@0.91m・幅0.7mの構造材とで構成され、図面で見ると狭そうに感じる。
しかし、内部空間は決して狭くない。教会の内陣に入った時に感ずる「竪に抜ける」印象を与える逸作品である。