各種イベント・コンクール

すまいる愛知住宅賞 (第30回)
名古屋市長賞
L L HOUSE

二つのL架構による3つの軒下が居場所を作る

今日の家にとって、その構えはどうあるべきか、ということがテーマである。
街を歩く目線から見るとき、家はその構えによって、巨大な壁のように見えたり、木々の連なりに見えたり、深い影を落とす軒先に見えたり、実にさまざまな様子をもたらします。家と街の関係は密接である。この住宅は、周辺から巨大な壁に見えてしまう家のように自己完結してしまいがちな「家」と街をどのように繋ぐのかを考えた住宅である。

<もとの地形>
大きな病院が隣接した住宅街に建つ家族2人の住処である。計画敷地周辺は古くは緩やかな見晴らしの良い丘であったが、隣接する大病院のボリューム感と病院の計画のためにアウトスケールに深く大きく掘り込まれてしまった地形と入隅の曲がり角に住宅が立て込んでいることから閉塞感が否めなかった。このような既存の周辺環境であっても遠くの風景まで見通せるような抜けの良さがあり緑に溢れた住まいを作るために、既存の地面に土を盛り木々を植えることで、緑の溢れる原っぱのような状態に戻し、古くからある緩やかな高低差のある地形に戻した。

<逆L型からなる軒下>
この計画では、そうしてできた斜面を延長するような形で逆L型の架構ボリュームを配置し、街に対しては軒下の空間が対峙するような構えとした。また、この逆L型架構を大小2つ並べ、その隙間が垂直のアクセス導線と眺望を望む水平スリット窓を抱える構成とした。このことによって、庭と家と遠景が直接触れ合うような近さになった。2つの逆L架構にはそれぞれ床スラブがぶら下がる形で取り付くことで内部の空間となり、そして、スラブが延長し大きな庇となることで、内と外の空間をつなげ、軒下空間が周辺の街に対する中間領域になる。この中間領域は、1階だけでなく2階と3階にもあり、特に3階は大型建具で解放することで、むしろ内部も大きな軒下空間となる。箱型ではない逆L架構の連なりがもたらす軒下によるヴォイドは、家と街の間のバッファーとなることで建て込む住宅街の閉塞感を和らげているであろう。

<緑を介して繋がる>
あるいは、この家は3方向に開いたバルコニーを契機として、家と近隣の街が緩やかに、段階的につながる。
まず、大きく開くことのできるサッシュによってリビングとバルコニーがつながる。コの字型の3方向バルコニーにはプランターや生活の様々なものが置かれ、近隣の住宅の木々やエクステリアと親和する。また、境界際の植栽が並木道となることで、近隣と街をつなぐフィルターとして機能する。いわば、近隣へのささやかなお裾分けとも言えるものだろう。

逆L型の軒下によって、街と家の間に中間領域としてのヴォイドをもち、家の周りを緑のフィルターが囲うことは、単に住まい手が満足するだけではなく、均質な住宅が向き合う街の閉塞感を減らすだけでなく、人々が同じ街に暮らしていることをかすかに感じられることで、街の暮らし方にささやかな開放さをもたらす一つの示唆となるのではないだろうか。

応募時のパネルはこちら(PDFファイル)

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設計者:D.I.G Architects/吉村 昭範

講評:審査委員 吉元 学

観測史上初めての40℃を超えた名古屋でも上空には気持のいい風が吹いているのを「L L HOUSE」のリビングで体感しました。敷地は高度成長期に開発された病院と住宅地のエッジの斜面に建っていました。昔の谷地形を復元した庭はL形の建物を浮かび上がらせるような効果があり、滝の水音は猫ヶ洞池へのせせらぎを想像させます。都市を毎年のように猛暑が襲っていますが、地形や緑化、水辺を再構築し都市環境を改善すれば、省エネ性だけでなく建築的な工夫の余地がまだまだあるのではないかと考えさせられました。

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