すまいる愛知住宅賞 (第30回)
UR都市機構中部支社長賞
連棟の家
26の連棟形式から生まれる内外の広がり
個人が営む美容院とその家族の住宅で、さらにバス停を取り込み、通り抜け散歩道を設える計画。
外部空間と内部が同じようなスケール・密度感で反復するような2?4畳半の小さな26の棟の連なりとし、周囲の2~3重に建て込む旗竿地への圧迫感を低減しながら緩衝帯となるような外部を多く作った。
小さな26の棟は近隣旗竿住宅地の密度感を和らげ空地環境を提供し、対角線上に横断する散歩道は近道を作りながら広大な田んぼの景色とつなげ、圧倒的に小さい26の建築群に対して大きな樹々は周囲の都市スケールと拮抗する。
独立した棟を連ねて並べていく「連棟」形式の特徴は断面図に現れる。ある断面では庭と内部空間が同じようなスケールで反復する分棟として建ち現われながら、ある断面では長いワンルームとして建ち現れる。連続した内部空間でありながら、スケールの似た内部と外部の反復と反転が起きることによって、ヴォリュームや面積を超えた広がりを感じる空間体験に繋がるのではないかと思っている。
構造は、在来軸組み工法ですべての四隅柱を90mm角とし小さな空間スケールに対応したメンバーにした。26の棟を8つの群としてとらえて、各群内・群と群の補完関係を確認し耐力壁を配置している。たとえば、ダイニング棟は耐力壁がなく開口部のみでつくられているが、水平力は隣接するキッチンや子供部屋に伝達されており、連棟形式によって強い棟と弱い棟が寄せ集まることでみんなで支えあうような相互補完関係が成立している。
敷地には毎日バスが停車して待っているお客さんを乗せ、美容室には1時間ごとに違ったお客さんがやってくる。近くの実家に住む建主のおじいちゃんは樹木に水をあげにくるようになった。隣接する旗竿住宅のひとつがピアノ教室を営んでおり子供たちが敷地の脇を木々を見ながら通り抜けていく。
都市の粗密の間にできたスポンジのようなポーラスな極小環境が、周囲のさまざまな環境を吸い込み、ここで営まれる小さな生活と混ざっていく。
設計者:studio velocity 一級建築士事務所/栗原 健太郎・岩月 美穂
講評:審査委員 松岡 由紀夫
竿敷地に建つ住宅、田んぼや駐車場など大きな空間の角地に、都市の粗密の間に出来た26の連棟式住宅と店舗である。敷地内の対角線上に通り抜ける散歩道を設ける事により住宅と店舗の繋がりを和らげ、また、子供たちが植樹を見ながら近道にもなっている。
ダイニング及びリビングは全面ガラス張りにより、より広い空間を造りだし天井高さを変化させることで適度にプライバシーを守り、視線が確保させている周囲のさまざまな環境と溶け込み、ここで育まれる生活と融合する。