すまいる愛知住宅賞 (第31回)
住宅金融支援機構 東海支店長賞
上原の家
敷地は、農地に囲まれた緩やかな斜面地であり北から東まで町並みを一望できる好立地である。のどかな風景として数十年続いていた場所にひとつの建物が加わると、それをきっかけに場所の印象は大きく変わる。よって風景を刺激することなく以前から佇んでいたような建築とはどのようなものか考えることにした。
敷地調査の際、少し離れた場所に丸太の柱と梁に屋根を載せただけの簡素な牛舎と納屋を見つけた。最小限の要素で作られたその建物は、風景に繋がる透明性を備えており、広がる農地のなか、境界が霞んでいた。そこでこの簡素で未完の内部をもつ建築というのが、自然や風景と建築がつながる際の手がかりになると考え計画に取り入れた。
まず、最低限必要な柱梁に大らかな屋根を架けた。1階は軒下や内庭、縁側、寝室が、等間隔な柱割の中で内部を介して階段状に繋がる。地続きの半外部空間は、周辺の風景へと視線が抜け、山からの季節風の通り道となる。主な生活空間は、将来周囲が循宅地となった際にも変わらず景観が望めるように2階に配置。下部のアプローチから浮いたヴォリュームの中に潜り込むように階段を上ると、大らかな気積をもった生活空間が、その先の眺望に繋がる。
将来敷地の北側に大橘模な幹線道路が予定されていることから、現在の農地と将来の住宅地というふたつの異なる敷地環境を想定して計画する必要があった。住宅地となるその時、大らかに架けられた屋根の下の半外部空間は公私を越えて余白として考がっていき、近隣の循宅にはその先の風景や風が届くだろう。住宅地の余白が繋がり、風通しのよい、透過性のある町並みが連続すると、いまある農地とは別の魅力的な住環境が生まれる、この住宅がモデルとなり新たな町並みを作ることが出来たら、暮らしはおのずと外部に溢れ、それが町の風景となる。透過性のある住宅計画が新たな住宅地に向けた提案につながることを願う。
設計者:佐々木勝敏建築設計事務所/佐々木 勝敏
講評:審査委員 北川 啓介
たしかに、日本古来の高床式の建築様式は、内部と外部を隔ててきた西洋の建築様式とは大きく異なり、周辺環境の風や温度や湿度を水平方向にも垂直方向にもふんだんに入り込む余地を設けることで、四季折々ならではの事象をそれぞれ巧みに往なしてきた。上原の家は、建築面積が30坪弱、延床面積が30坪あまりとは到底信じられないくらいに、遠くは数キロ先の事象をも日常の生活のひとときに組み込み、日本とは思えない雄大で贅沢な空間と時間が存在した。