すまいる愛知住宅賞 (第35回)
愛知県知事賞
雲谷町の家
座談山の麓にある小さな集落の真ん中あたりに敷地はある。幅員1.8mの前面道路と、間口19m×南東側の竹林手前までの間に2m下がった奥行46mの傾斜地からなる。
雲谷町の古い家を観察すると、母屋を中心とした農家住宅の形式だが、その中で納屋が営みの中継地点として内外を繋いで、暮らしを支えていることが見受けられた。
この家でも、雲谷町の人びとの暮らしにおける納屋のハタラキを分棟形式ではなく、母屋に付随する内外の中間領域として室内と敷地の外側に開くこととした。
若い建主の将来を見据えた価値観から、広い敷地を使い尽くすように、家の内外に開いた大きな平屋とすること。また彼らの子供の特性で見守りが必要なことから、ひとりで外へ出ないように家の内外の境界をはっきりと明示すること。そんな内外の境界を巡る、相反するふたつの要望から設計が始まった。そのため、この家の構成は、水回りを居間、個室、納戸で囲い込み、外側に活動の場の表面積を増やした5間角入れ子構造に、1階の床面積と軒下の面積が1対1となるように奥行き2mの軒が周囲をぐるりと回る3重入れ子構造とした。たとえば、境界の塀に布団が干されていると、塀が本来とは異なる機能をもった道具となることで、敷地境界を明示するハタラキを失い、フワッと軽くなる印象がある。ここには開き方の手掛りがある気がした。使い方によって機能が上書きされ、境界のハタラキを曖昧にして開く考え方だ。
そこで、本来開口を穿つ際に窓台とまぐさにより切り取られる柱、間柱をそのまま残した。その奥には、構造用合板、アルミサッシと各層が取り付く。外側は、構造用合板と同じ3尺幅のフレキシブルボードを柱・間柱と同じ1尺5寸間隔の押縁で留めた。外壁の内側と外側に同じリズムで整然と並ぶ柱、間柱、押縁には内外共にベンチ、棚板、ハンガーパイプ、設備機器が取り付き、機能を自由に付加できる道具として存在する。暮らしを外部から守るための外壁が、両側から使用できる道具となり、内外部の使い方の隔たりをなくすことで、境界を明示しながら、曖昧でもある両義的な外壁=道具となった。
そのため、使うほどに境界が消失して、多様な機能を備えた道具として生活を支えることで、外壁もまた開く気配を纏を纏うだろう。
設計者:吉田夏雄建築設計事務所/吉田 夏雄
講評:審査委員 北川 啓介
水路から畑への水の流れる高低差や緩やかに曲がりながら繋がるあぜ道の配置などに、先祖代々の農家をはじめとするこの山の麓での人々の営みが蓄積された集落に建っていた。会議室での一次審査で拝見したその住宅についての文章と写真の媒体からは想像しようがない豊かで美しい生活そのものが現地での二次審査で繰り広げられていた。物質的な意味での住まいを超越してご家族がすっかり使いこなされはじめており、竣工までが一割/竣工からの思い出の数々が九割、のような、住まい本来の根源を再認識させてくれた住宅である。極めて高く評価したい。