すまいる愛知住宅賞(第35回)
佳作
地上の家
敷地は前面道路から奥に向かって5m高くなっており建ぺい率も大きくはない。施主からの要望は具体的でさまざまな部屋の面積や高さなどが決められていた。庭は手入れができないため要らないともいわれたが、この敷地は緑化率の規定があり、様々な矛盾と戦うこととなった。
元々ここは住宅街に残された畑で、敷地内には作物や木が多くあった。周りの家は切土をして平らな家を建てるか、半地下のガレージをつくりその上に建てていた。しかし、それでは土の移動や擁壁に多額の費用がかかり、地形を無視した庭、もしくは南側に手入れの行き届かない大きな庭ができてしまう。
そこで、畑だった特徴を活かし高低差をおおよそそのままに住宅をもち上げた。地上をピロティと緑化の場所にし、地上に水平の広がりを獲得している。玄関は敷地奥に配置し、緑化された場所を通らなければいけない。庭だと荒れていても気にならないかもしれないが、毎日通る道であれば手入れもしたくなるだろうし、ピロティであれば天候問わず子供と遊びたくなるかもしれない。
要望された各室の面積を満たそうとすると建蔽率をオーバーした。居住部を 2 層だと叶うが、3層では法規も厳しくなり、また建材の高騰時期と重なり平屋形式を採用している。吹き抜けの要望があった LDK は平屋ながら 3.8m と高い天井高を維持している。また希望面積確保のため両端部は寝室、収納、水回りを2層とし、階数に含まないロフトとした。さらに緑化率とのせめぎあいから LDK の幅を狭め、I型の平面とし、建築面積に入らない出窓を設けることで平面的に広げ、伸びやかな内部空間を獲得している。
登っていく斜面地に建てる場合、敷地の傾斜に合わせ段々に床をつくっていく形式が多かったように思う。今回の建ち方は、崖上に入口があり斜面は行かない場所とする懸造のような形式と似ているが、入口は崖の低い方にある点で逆転している。斜面地に向き合う新しい解法であり、地上から開放された地の上に建つ住宅となった。
設計者:ナノメートルアーキテクチャー/野中 あつみ 三谷 裕樹